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大阪地方裁判所 昭和30年(行)2号 判決 1957年3月05日

大阪市東区谷町五丁目一八番地

原告

松浦梅太郎

大阪市東区大手前之町

被告

東税務署長 山田寛

右指定代理人

大蔵事務官 石黒竜夫

前川登

両泰資

右当事者間の所得税決定処分取消事件について当裁判所はつぎの通り判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が原告の昭和二十八年度所得税について、昭和二十九年四月一日付でした更正処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として

「(一)原告は、肩書住所において医療器機の販売業を営んでいるものであるところ、昭和二十九年三月十五日、昭和二十八年度分所得税について総所得金額一二六、五九六円、所得税額零とする確定申告書を被告に提出した。

これに対し被告は同年四月一日付で総所得金額二五七、〇〇〇円、所得税額二二、〇〇〇円、過少申告加算税額一、一〇〇円とする更正処分をなし、原告に通知した。

原告は同年四月十九日被告に対し再調査の請求をしたが被告は同年五月二十八日付でこれを棄却する決定をなし原告に通知した。

原告は、同年六月二十六日大阪国税局長に対し審査の請求をしたが、同局長は、同年十月十一日付でこれを棄却する決定をなし原告に通知した。

(二)しかし、原告の昭和二十八年度の売上金額は一、四八五、一六二円であり、原告の申告額所得額は相当であり、被告の更正処分は違法である。

よつて原告は本件更正処分の取消を求めるため本訴に及んだ。」

と述べ」

被告の主張に対し

「被告主張の事実中(二)の(1)、及び(2)の(イ)記載の事実は認めるが、原告の取扱商品は一般に在庫期間が長いのみならず、昭和二十八年度は当初原告の養子と二人で営業する計画であつたところ家庭の事情により同年四月より十月まで原告一人で営業したため仕入商品を全部はかし切れず、相当の売残り品を出したのである。従つて年間仕入金額を推計の根拠とする被告主張の所得金額は不当である。」

と述べ

証拠として、甲第一乃至第十二号証を提出し、乙号各証の成立を認めた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「(一)原告主張の事実中(一)記載の事実は認める。

(二)原告の昭和二十八年度の仕入金額から同年度の所得の金額を推計計算すれば次のとおりである。

(1)(仕入金額)原告は昭和二十八年度において少くとも二、〇三三、五一二円の医療器械の仕入をしている。

(2)(売上金額)

(イ)  原告の昭和二十八年度営業における仕入金額に対する収入金額の割合は一一八、三%である。

(ロ)  従つて、原告の昭和二十八年度収入金額は二、四〇五、六四四円となる。

(算式 2,033,512円×118.3%=2,405,644円)

(3)(所得の金額)(2)の売上金額より(1)の仕入金額を控除すれば、三七二、一三二円の荒利益となり、これから必要経費九六、九六〇円(原告の申告をそのまゝ是認した)を控除すれば原告の昭和二十八年度所得金額は二七五、一七二円となる。

(三)従つてこれより低額に決定された被告の本件更正処分は何等違法の点はない。」

と述べ

証拠として、乙第一号証の一乃至三、第二乃至第九号証を提出し、甲号各証の成立を認めた。当裁判所は職権により原告本人を尋問した。

理由

原告主張の事実中(一)記載の事実は、当事者間に争がない。

よつて本件の争点である原告の昭和二十八年度所得金額について判断する。

被告主張の事実中(二)の(1)記載の事実は当事者間に争いがなく、原告本人の供述によれば、原告はその営業方針として見込み仕入を避け、注文を受けて仕入れこれを納品する方法を採つている関係上商品を手持ちすることはさほど多くなく、それでも各年末の在庫高は漸増の傾向にあつて、原告の昭和二十七年末、従つて昭和二十八年初における在庫商品は金一〇、〇〇〇円位(仕入価額)であり、昭和二十八年末における在庫商品は金二〇、〇〇〇円位(仕入価額)であつたことを認めることができる。原告は同年度には相当多額の売残り品を出したと主張するが、この主張を是認し、右認定を覆えすに足る証拠は全然ない。ところで、一般に商人は、盗難、紛失、毀損、その他特別の事情のない限り、その取得した商品として販売するものと見るのが相当であるので、特別の事情の認められない本件においても、原告は、昭和二十八年中に前記争いのない同年度の仕入高二、〇三三、五一二円と右認定の期首在庫高一〇、〇〇〇円位計二、〇四三、五一二円位から右認定の期末在庫高二〇、〇〇〇円位を控除した二、〇二三、五一二円位(仕入価額)の商品を販売したものと認めるのが相当である。そして原告の昭和二十八年度営業における仕入金額に対する収入金額の割合が一一八・三%であることは原告の争わないところであるから、これを基礎に原告の同年度の売上金額を推計すれば二、三九三、八一四円位(算式2,023,512円×118.3%=2,393,814円)となる。原告は同年度の売上実額は一、四八五、一六二円であると抗争するが、本件の全証拠によつてもこれを認めることができないし、前記売上金額の推計を不合理と認むべき点はないから、原告の右主張は採用しない。従つて原告の昭和二十八年度の荒利益は三七〇、三〇二円位(算式2,393,814円-2,023,512円=370,302円)であると認むべく、これより成立に争いのない乙第一号証の二(原告が被告に対し提出した収支計算書)によつて認められる必要経費九六、九六〇円を控除すれば原告の昭和二十八年度所得金額は、二七三、三四二円位となる。これを左右するに足る証拠はない。

よつて原告の昭和二十八年度所得金額を、前記認定額より下廻る二五七、〇〇〇円とした本件更正処分の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 平峯隆 裁判官 小西勝 裁判官 首藤武兵)

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